2011年9月アーカイブ

某月某日

先日、NHKにて宮藤官九郎さんと向井秀徳さんが「私の10曲」を選ぶという趣旨の番組をやっていた。
向井さんは8年前の誰そ彼 Vol.3や、築地本願寺ライブにもご出演頂いたご縁がある。
それに宮藤さんという組み合わせも面白く、とても興味深く観た。

特に印象的だったのが「今の自分をあらわす1曲」というテーマで、2人とも震災後に音楽をあまり聴かなくなった時期があり、また聴ける様になったきっかけの曲を挙げていた事だ。
向井さんは『東京節』、宮藤さんはエンケンさんの『ラーメンライスで乾杯』をセレクトされていた。

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『東京節』は古くからある歌だけど、これまた以前誰そ彼にご出演くださったあがた森魚さんによるカヴァーを僕はよく聴いていた。
エンケンこと遠藤賢司さんは同姓のヒーローとして尊敬の眼差しで、こちらも築地本願寺ライブご出演頂いた折に、職権濫用(?)とわかりつつも思わずサインを頂戴してしまった程のファンだ。

曲をよく知っているが故に、両者の選曲には非常に頷いた。
震災のあとにふとiPodでランダムに再生された『ラーメンライスで乾杯』が気になって、その後何度もリピートして聴いていた、という宮藤さんの体験を想像して、自分の身にも起こりえたのではないかと思える程に強く共感した。

僕にも似たような事があった。
当時このブログ日記にも書いたが、地震があっても続く暮らしの中、漠然と捉えながらどうしようも出来ない不安に元気を失くし、僕もやはり消耗していた。
そんな折に、吉祥寺サムタイムで聴いた渋谷毅さんと平田王子さんの演奏が、
僕にとっての『東京節』であり『ラーメンライスで乾杯』なのだ。

いつもと変わらぬ佇まいで穏やかに力強く響く渋谷毅さんのピアノ。平田さんの歌声とギターは初めて聴いたのだけど、よく知る歌を鳥のような美しい声で楽しく歌っておられた。
なんというかその情景に、少し安心して少し元気が出たのだ。
その時に、この音楽をみんなと共有したいと心から思い、翌日平田さんにメールを送った。

その思いが、10.22の誰そ彼 Vol.22で愈々結実する。
共演者はみんなでたくさん悩んだ結果、ご縁の長い久住昌之さんにお願いした。

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何故久住さんにお願いしたかと問われると、なんとなくしっくりきそうだと思ったという直感もあるが、久住さんが先日リリースしたアルバムの一曲目『ボクだけの線』の歌詞からの影響があるかもしれない。
その箇所を抜粋させて頂くと、

---
ボクにしか引けない線で キミの顔を描きたいな
ボクにしか出せない色で キミの髪を塗りたいな

ボクにしか出せない声で 今の気持ち伝えたいな
ボクにしか弾けない音で 古いギター鳴らしたいな
---

この曲を初めて聴いた時に、毎回こんな気分で誰そ彼を企画しているなあと思ったのだ。
今回も個人的な経験から始まった思いではあるが、正に「ボクにしか出せない声で 今の気持ち伝えたいな」という気分からだ。
震災後に吉祥寺のサムタイムで実感した、あたたかい色で輝く空気をもっと多くの人と共有したいという思い。
そんな思いが静かに、そして賑やかに鳴って、来てくださったみなさんが楽しく安心な気持ちになれるといい。

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お寺の音楽会 『誰そ彼 Vol.22』 

日時:2011年10月22日(土) 17:30~21:00 
場所:梅上山 光明寺(東京 神谷町) 
http://www.komyo.net/ 
料金:1,000円 with 1ドリンク 
※ 今回はご予約制ではありません。当日、どなたでもご入場頂けます。 
出演: 

[Live] 
・平田王子 
http://kimikohirata.chu.jp/ 
・久住昌之 & BlueHip 
http://www.qusumi.com/ 
メンバー: 
久住昌之(歌、生ギター)Shake(キーボード)フクムラサトシ(サックス) 武士守廣(ベース)荊尾浩司(カホン)美香&陽子(ダンス) 
・Projector Q
(久住昌之さんによるおもしろスライドショー)

[法話] 
・増田将之(浄土真宗本願寺派) 

[選曲] 
・Busse Posse DJ's 

[Food]
・料理僧 KAKU(from 暗闇ごはん)
http://www.higan.net/kurayami/

[Drink] 
・神谷町オープンテラス 
http://www.komyo.net/kot/ 

more info 
http://www.taso.jp
某月某日

会社帰りに吉祥寺のサムタイムに寄った。
以前誰そ彼でベースを弾いてくれた福岡の松永誠剛くんが
ブッキングしたライブがあったのだ。

出演はフランスのレミ・パノシアンのピアノトリオ、
そしてアルメニアのティグラン・ハマシヤンのソロピアノという
ピアノづくしのイベントだ。

サムタイムの階段を降りると、いつもの安心の空気が広がっている。
誠剛くんは前日の東京JAZZでティグランの演奏を
初めて生で聴き、その若き才能にやや興奮気味の様子。
今回誘ってくださったキングレコードのSさんも準備に動いておられた。

最初はフランスのレミのトリオ。
曲も演奏も兎に角瑞々しく、隅々までに愛嬌がゆきわたる。
バラエティに富んだ楽曲の上で、会場を楽しませようという
3人の心意気が和やかに競いあっている感じだ。
ひとつのショウとしてすっかり完成しているにも関わらず
全然暑苦しく感じないのはなんだかフランスっぽいのかなと思う。
そしてやはりレミの若い感性に共感する部分も大きい。

誰そ彼で過去二回も演奏してくれているピアノのSaaraさんも途中でサムタイムにやってきて乾杯。
久々の再会がうれしい。

そして愈々、アルメニアのティグラン・ハマシヤンの演奏。
レミとはまた違った魅力の人だ。
寡黙で朴訥とした青年で、なんとなく親しみと好感を抱いた。

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祖国アルメニアのフォークソングを素地としているのか
清らかなる静謐さと、若さ宿る前衛の往来に、フっと郷愁を匂わせてくる。
そして、徐々にパッションを盛り上げていくミニマリズムにはジョン・ケイルのギターを思い出したり、
思わず漏れ出る唸り声と歌にミルトン・ナシメントのサウダージを浮かべ、
その躍動の隙間に時折キラキラ光る清流のような、あたたかく精緻なタッチはジスモンチみたいだ。

ピアノのスタイルで言ったら、いくつかのジャズの巨人の名が挙がるのだろうけど
それだけでは語りきれない魅力を備えていると思う。
前述のアーティスト達はもちろんの事、例えばレディオヘッドやビョークを聴くような
ロックリスナーにも気に入られそうな才能だ。

聞くところによると、世界的にも有名になってきたティグランが
故郷アルメニアを離れないのは、ボーダレス化が過ぎる世界へのアンチテーゼとの由。

イマドキのいわゆる「何でもあり」が慢性化すると、"ロマン"みたいなものが
足りなくなってきちゃうんじゃないかという漠然とした危機感を覚える時がある。
世の中にはそっとしておかれるべき奥の場所がきっとあって
その境界にどかどか土足で踏み込んでくるような「ボーダレス化」ならご免、て僕は思う。

ティグランのようなアーティストには、ボーダーをキープしつつマージナルをどんどん徘徊してほしいな。

以上は完全に僕の思いですが、ティグラン本人の思いについてインタビューを読んでみたいなあ。
この来日で、いくつかの音楽誌に露出していればいいけど。

因みに、誰そ彼は夕暮れ時のどさくさに紛れて何時の間にか境界線を曖昧にしておくのが趣味。
朝が来るまで気付かない、
一夜限りのフラットな場所を標榜とする。
、、、ナンチャッテ!

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某月某日

8月の終わり、ひと雨あって街中の空気がスッと様相を変え始めたその日「光明寺たそがれ夏祭り」を開催した。

光明寺に着くと、強烈に香しいスパイスの香り。お寺別館の台所でインド料理屋さながらの匂いを発しているのはなぎ食堂 / mapの小田さん。
どう捻ってもおいしいカレー以外は出てこなさそうな鍋の様子を感じて否応なしに期待は高まる。

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出演の王舟さんはお寺の畳の上に足を投げ出して、ゆっくりとした佇まいでギターを鳴らしている。高城昌平さんもやってきた。
ご出演者、スタッフ達が揃ったお寺の一室には、まるで暫くぶりのいとこ同士が集まってきたかのような、"他人ではないかんじ"の空気が既に横たわっている気がした。
これからみんなでやるのはライブイベント?、、、もしかしたらホームパーティーのようなものかもしれない。

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開場前、お客様が続々と集まるテラスもなんともいい空気。
"残暑" という美しい日本語を忘れてしまいそうなくらいの優しい風がテラスにそよいでいる。

今回は光明寺に新しく導入されたスピーカーのお披露目会も兼ねての夏祭り。お寺の設備を使わせて頂くだけなので準備は早い。
いつものスピーカーは外に出張して、スタッフ齋藤くんの選曲をテラスに届けた。

最初のライブは高城昌平さん。軽妙なMCで誰そ彼への入り口をより親しいものにしてくださり、リラックスしたムードで演奏がスタート。
ソロ故にceroではやらない曲を、という事でカヴァー曲を交えつつだったが、一貫したテーマが通底しているような楽曲たちに、お寺の本堂で向かい合う。
夏の終わりのみんなの心にしっとり浸透してくる、静かな泉のようなひんやりとしたギターと歌声だった。

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光明寺新スピーカーは快調に鳴っている。このスピーカーのお父さんとも言うべき方、ユニット部分を開発したLEEDの江夏喜久男さんに話して頂いた。
「この音を聴いてどう思いますか?」
あまりに率直な質問に思わずたじろいでしまい上手く回答出来なかったが、言われてみれば確かに判る「音が真っ直ぐ聴こえる感じ」
音は真っ直ぐにしか飛べないから、真っ直ぐに飛ぶユニットを作ったという。変に反響したりせず、所謂 "音がまわる" 感じがない。
江夏さんは「あの向こうのお墓まで届く」と自信を持って断言されていた。
お経が墓地に満ちる様子を想像してなんだかうれしい気持ちになった。

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続いて光明寺僧侶の松本紹圭による法話。この法話の声もお墓に染み込んでいるだろうか。
人の苦しみとは「思い通りにならない事」、例えば身近で言えば、背がもう少し高ければとか、もっといい仕事に就きたい、とか。
そんな導入から、実は"生まれる事"も望んだわけではないので仏教では"苦しみ"の内に入るという考えに話は及び、そこからするすると原因を辿っていくとどんどん頭が整理されていく。
ほんのちょっとの視点の変化で少し気持ちがラクになる事がある。仏教は一緒に悩んでくれるから、多くの人にとってとっつきやすく、ヒントが見出し易いのだと思う。
お坊さんはその手助けをしてくれるのだ。

ラストは王舟さんのライブ。
意外にも寺ライブは初と仰っていたが、本堂の前で正に堂々と響くギターと歌は男らしくかっこよかった。

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序盤は高城昌平さんをゲストに迎えてのメドレー。電気グルーヴの「虹」カバー等も聴かせてくれた。
しなやかに聴こえるのに、芯が太く、繊細なのに豪快。相反する二つの印象が入れ代わり立ち代わる不思議な個性だ。
最後に演奏された名曲「Thailand」の歌声は光明寺新スピーカーによってお墓を越えてまだ見ぬ彼の地に届かんばかり。
居場所を失くして暗闇に浮かぶかのようなこの心地良い感覚が、いつまでも続いてほしいと願った。

そしていつもの様にみんなでお経を詠んで終了。
ご来場くださったお客様、御出演者の方々、スタッフのみんな、ありがとうございました。

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